厚塗りの重要性

1 剥がれの原因

外壁、破風(木部)など、表面積の大きい部分にかかる物理的な作用は、その殆どが、湿度、気温、振動を原因とする伸張作用、運動です。
その作用による塗膜の剥がれが一番目立つのが、軒板(軒天)、破風板です。

軒板の剥がれは、屋根の水漏れや雨樋から、破風板を伝わっての水気の進入で、軒板が腐るとか、ふやけてしまって塗膜が剥がれる事が多いようです。
対策としては雨樋の流れを確保すること、詰まりをなくす、樋の傾斜が適切か、不適切であればそれを直すことです。
大きな立木のある家や、林、森林の近くの家は雨樋に気を遣ってくださいね。

塗装、リフォーム関係の営業マンさんから、破風板の塗膜の剥がれを指摘された方も
多いかと思いますが、私の経験から、ちょっと、この「剥がれ」について考察してみたいと思います。

2 昔気質の職人さんが言うには・・・

私の廻りの町場経験のみの職人の間では、頑固に「塗膜が厚いと剥がれやすい」といったことが言われていました。
そうした人に突っ込んで話を聞いてみると、その根拠は非常に曖昧で、ただ、感覚的な「感じ」だけで、剥がれた塗膜を手に取って観て、「・・・厚いから剥がれたんだ~。」と言った程度です。

厚いと何で剥がれるのか?の質問にはちゃんと答えてもらっていません。・・・論理的に教えてください、と言ったら「うるせ~よ~、何が論理だよ~」でおしまい!!
それ以降、何となく疎んじられるようになりました・・・。
(聞いた人は一人二人じゃありません。経験の浅い、もしくは町場経験のみの頑固な職人さんに多い!!)

3 厚塗りの重要性・・・「美観」と「長期保護」

ここで塗膜をビニールとして想像してください。
例えば1ミリの厚さのビニールとそれを2枚重ねて1枚としたビニールでは、引っ張った時にどちらが先に破れるか、ということです。

ひび割れに対しての抵抗力はその膜厚に大体、比例します。とはいえ、一回に塗れる量にも限界があるので、数回に分けて塗り付けます。
大体、町場(一般家庭の塗装工事)で下塗に一回、中塗に一回、上塗に一回と最低三回、塗布します。

塗膜の厚さは、美観の面からも、長期保護の面からも非常に重要です。
美観の面から言うと、仕上げた後に巣穴があるほどに薄い塗膜だと、乾燥も(塗料は乾燥が遅ければ遅いほど良いのです。※)劣化も早く、色がうすく、艶も早く無くなり、汚れ易くなります。
又、ローラーを転がした跡や、ダメ込みの跡(縁取り)がすぐに出てきてみっともなくなります。
塗ったばかりでも、塗られたもの(家の壁など)を斜めに見ると、ローラーの跡がわかりやすく、その壁に斜めに夕日などが差していればなおさらのことです。保護の面から言っても、その様な薄い塗膜が、塗られたお家の保護をするはずもなく、薄いからこそ水気を帯びやすく、その下のモルタルや、木材を蝕みます。

また、同じ仕上げ材料でも中塗までに充分、膜厚を付けたものと、薄い膜厚の時では触った時の質感(ツルン度?)が全然違います。

4 腕の良い職人さん?

蛇足ながら公共工事などで鉄部の塗装は最低、4~5回以上、重ね塗りをします。
塗装後、膜厚検査をし、指定した膜厚に満たなかった場合、塗り重ねを指示されます。

ですから塗りにくい塗料、作業性の悪い塗料であっても、勝手に好きなように希釈は許されません。
それも、同じ材料ではなく、一塗り一塗り違う材料を指示されることもあります。
鉄部塗装でひどい職人さんになると、いかに透ける事無く(下地を見せることなく)薄く塗り上げるか、それが腕の見せ所と本気で思いこんでいることです。それはそれで腕が良くなくては出来ませんが、溶剤が揮発した後の膜厚を想像して欲しいものです。

・・・膜厚は厚いに越したことはありません。

5 傷と割れのイメージ

駆体には圧縮、伸張(膨張)作用がかかり、その作用は繰り返します(寒暑、湿度などによる作用)。
経年変化により塗膜は徐々に乾燥、劣化し、駆体の運動に追随出来なくなってきます。
(※ 塗料の乾燥は遅いほどよい、と言う理由はここにあるわけです。)

塗膜は紫外線や風雨などの環境に曝され傷んできます。木部などは最初の塗装の時に、塗料の吸い込みがあるうえ、塗装時に膜厚のムラがあるので、力学的な弱点がそこに見いだされ、剥がれなどはそこから始まると思われます。

一度傷ついてしまえば、もう、そこから水気が入り、今度は日差しなどによって乾いていく、
又雨が降って濡れる、乾く、の繰り返しによって剥がれなどが進み、傷んだ塗膜は営業さんの目に触れるわけです。

2図ア・イのように塗膜に傷が付き、割れた場合、割れた部分は上方に反り返ろうとします。
が、二回以上の塗り重ねの場合、例えばB層(黄緑の部分)の傷イが反り返ろうとしても
A層(黄色の部分)がそれを防いでくれます。
A層のアが反り返ろうとしてもA層とB層の塗料の密着の強さがそれを防ぎます。

駆体とB層の密着の強さも、イの傷の進行を防ぐわけで、
だからこそ駆体に対しての塗装前の高圧洗浄やケレン・脱脂と呼ばれる作業が重要なわけです。

一度塗りでそれなりの膜厚が得られたとしても、常に厳しい環境の中に曝されていれば、
いずれは傷つき剥がれてしまいます。故に一回の塗り付けで出来るだけ厚塗りをし、更に分子質の異なる塗料を塗り重ねれば、それだけ丈夫な塗膜が得られて、より長く、より美しくお客様の財産を守るのです。  

人間に優しい、四季の美しい日本。  
でも、塗膜にとっては季節の移り変わりは厳しい試練に他なりません。その点をご理解あって欲しいと思います。